女ですが読んでみました『妖獣都市』(著:菊池秀行)

3.5
書籍レビュー

あらすじ

太古から人間界と魔界の間で、密かな交流が続いていた。魔界からの過激な侵入者と戦う能力を備えた闇ガード滝は、両世界の間で結ばれる休戦条約締結の重要人物マイヤート氏の護衛の任務に就く。魔界の闇ガードである麻紀絵とともに、襲い掛かる妖獣たちとの激しい戦いを描く。

読むキッカケ

 夫に「なにかおもしろい本ない?」と聞いてみると、「じゃあコレ」と手渡されたのがこの『妖獣都市』でした。うーん、表紙からしてなんだか怪しい本です。

※借りた本の実物写真。ちなみに夫は同じ本を表紙が違う等の理由で4冊所持しているらしい。夫の本棚は怪しい本でいっぱい。

 文庫本をひっくり返してあらすじを読んでみると、思いっきり”エロティックな死闘”と書いてあるではありませんか。チョメチョメなシーン満載の夫の趣味全開の本であることは、怪しい表紙とあらすじでなーんとなくわかる。果たして、これは妻に勧める本として適切なのか? 大いに疑問に思われます。

 夫曰く、勧めた理由は「女性の視点から読んでみたら、どんな感想になるのか興味がある」とのこと。なんだか嬉しそうにニヤニヤしながら勧める夫ですが、「ふーん……こんな本好きなんだあ……へえ……(ジト目)」と読後に冷めた目で見られるようになっても知らんぞい。

 とはいえ、私は読まず嫌いしないことを信条としておりますので、とりあえず文庫本を受け取り、最後まで読むことにしました。

※以下、感想は全てネタバレありですのでご注意ください。

エロに意味はあるんですか?

 上記のような経緯を経て、女ですが読んでみることにしました。するとまあ、開幕キャバクラ→お部屋にGO!からの、あれよあれよとチョメチョメなシーンに突入。文庫で12ページ目にはコレ。このサクサク感、エロ本かよ!(間違ってる??あってる??)

 しかしその相手は実は妖獣でした! 妖獣に取り込まれそうになったけれども、あっさり返り討ちにする主人公滝。「闇ガードを甘く見たな」と、崩れ落ちる妖獣に言い放つ。多分、格好よく言ってるシーンのはず。主人公つええ、かっけえって演出をしているシーン……だと思う。

「いや、お色気作戦にアッサリ引っかかって格好悪いよ!」そう言いたくなるのは、私が女性だからですか? 「お前全裸だろ、服着ろ!」とかもナンセンス?

 初っ端からこれであります。エロスに満ちたシーンはほかにもさまざま。キャバレーでホステスたちを大人しくさせるためにコチョコチョしたり、女性器に化けた妖獣をアレな方法で撃退したり、と「別にエロくない方法でもいいんじゃないんですか? エロくないとダメなんですか?(真顔)」と言いたくなる箇所多々。

 極めつけは、麻紀絵が敵に捕まり集団レイプされるシーン。おまけにわざわざ、現場から離れたところにいる主人公&周辺にいたモブの方々の前で上映。クールなヒロインがあんなことやこんなことされる姿に、男性読者諸君は大興奮大喝采なんでしょう。なんなら、モブの方々とシンクロして「俺も見てえ!」ってなるんですかね。「あー、よくあるエロ漫画の伝統的な展開っすよね(鼻ホジ)」とか言ったら怒られそうです。今、言ってしまいましたが。

 読了後、私は思いました。「エロに意味はあるのでしょうか??」

実は、本質的には正統派な娯楽小説

 というわけで、一週目の読了のおおざっぱな感想は「うーん、確かにエロかった。あと夫は変態に違いない」という感じでした。

 一回読んだあと、しばらく時間があいたので再読してからレビューを書くことにしました。すると、過激なエロシーンにばかり目が行っていて、ストーリーやキャラクターがろくすっぽ頭に入っていなかったことが判明しました。

 まず、予想外の結末に向けてしっかり話の流れができていたことを二回目の読書で発見しました。滝と麻紀絵がマイヤートに護衛される側であった、というラストは一週目でも「おー、これはうまくミスリードされたわ!」と驚かされましたが、よくよく読んでみると意外なラストに向けて、最初からきちんと展開していたことに気づきました。

 麻紀絵のレイプシーンに関しても、滝が麻紀絵に向ける感情を自覚するための展開として機能しています。滝が麻紀絵に好意を抱いていること、逆に麻紀絵からも好意を抱かれていることがこの後描かれ、エンディングにダイレクトに繋がっていくわけです。

 同様に、冒頭のエロシーンに関しても、短いシーンで世界観の説明や作品の方向性を伝えるために配置されていることが分かります。この『妖獣都市』はエロもストーリーの一部として機能するよう設計されています。「意味もなく」エロい、のではなく、「意味はあって」エロい、ということが、エロが目的のエロ漫画との違いなんだなーと思いました。

 キャラクターに関しても、読者にとって魅力的に仕上がっています。主人公の滝は、バトルが強く、基本的にはクールな男で格好よく描かれています。表の顔のサラリーマンの親しみやすさと男性的な憧れを兼ね備えたキャラクターです。麻紀絵に関しても、とびきりの美女で、強く、クールな性格ですが、ところどころ愛嬌のあるシーンも描かれヒロインとして理想的な存在。守られるだけではないヒロインというのがいいですね。

 あと、キャラクターの魅力の話をするなら外せないのはトラブルメーカー・マイヤート氏。滝も麻紀絵もクールなキャラクターなので、正反対の性格のマイヤート氏の茶目っ気溢れる言動が引き立ちます。息つく暇もない激しいバトルの後、マイヤート氏がひょっこり出てきてやいやい騒ぎ立てるとなんだか和んでしまいます。物語に緩急をもたらしてくれる、いいキャラクターだなと思います。実はそれもラストには滝と麻紀絵のためだと明かされるのも「あの憎まれ爺さんが!?」となるので、一粒で二度おいしい。

 総合して考えると、ストーリーとキャラクターはきわめてまっとうなエンタメ小説だと感じました。エロを抜いてもこの小説はちゃんと成立すると思うレベル。でも、エロがないと絶対ダメだと力説する夫の姿が目に浮かぶ。

総評:★3.5 エロとバイオレンスを山盛り特盛りした小説。さすがに女性目線のレビューで手放しに高評価は出しづらいが、エンタメ小説としてきちんと完成されていることは保証できる。しかしながら、世間の男性諸君が女性に勧める小説としては甚だ不適切であることは間違いないのでご留意を。

閑話休題な話

 話は『妖獣都市』から変わるのですが、『されど罪人は竜と踊る』(著:浅井ラボ)というシリーズがガガガ文庫、つまりライトノベルのレーベルから出ていまして、その話をちょっとしたい。

 『され竜』を愛読していた時期が私にもありました。冴えない攻性咒式士の主人公が様々な依頼を受ける中で、世界に影響を与えるような大事件に相棒とともに次々と見舞われる……という作品です。主人公と相棒の頭のねじが飛んだ子気味のよい掛け合い、科学と魔法が融合した独特な世界観、何よりもハッピーエンドを望む読者をどこまで粉砕したいのだろうというほど救う気がない結末が好きでした。胃もたれ確実の鬱エンドを求めて、夜を徹して読んだこと幾たび。

 で、この作品のほかのラノベとの大きな相違点なのですが、上記に挙げた点以外にもありまして、それは「本当にこれラノベとして出していいんですか?」と言いたくなるほど、過剰なグロと青少年には過激なエロです。戦闘中に手足も首も吹き飛ぶし、露出した脂肪の描写まである。性行為に及ぶ描写もガッツリあります。ヒロインの下着が見えただけで大騒ぎのラノベレーベルでなぜこれが出せたのか、不思議でならない。

 明らかに『され竜』は既存のラノベの流れから逸脱したところから生まれた作品です。長い間「これはいったい何を食べて、何を読めばこんな作品できるのかなー」と不思議に思っていたのですが、今回『妖獣都市』を読んで、その謎がちょっと解けました。著者の浅井ラボ氏は1974年生まれ。この『妖獣都市』は1985年徳間書店から出版されたのが初出。影響を受けている可能性は多いにある……というか、まったく無関係とは到底思えない。

 なるほどね、全然知らないジャンルの本も読んでみると思いがけない発見があるものだ。

プロフィール
よまず
yomazu

読書歴10年。大学時代まで全く本を読まない人生を送っておりましたが、文芸部に入部して小説を読んで批評したり、書いたりしているうちに読む習慣がついてしまいました。
一応好物は童話、ファンタジー系ですが、ビジネス書から小説まで読まず嫌いせずに読んでいきます。
現在仕事を辞めて、まったり専業主婦ライフ中。

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